MMSEは認知症の検査方法のひとつです。
MMSEは認知症の診断材料になり、信頼性や妥当性が認められています。
MMSEとはどんなものなのでしょうか?
本記事ではMMSEについて以下の点を中心にご紹介します。
- MMSEで検査できる項目について解説
- MMSE以外の認知症検査方法について解説
- MMSEの信憑性やデメリットについて解説
MMSEについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
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MMSEってそもそも何?
MMSEは「Mini-Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)」という、認知症の検査方法のことです。
11項目の質問に答えてもらい、30点満点のうち何点とれるかを検査します。
点数によって、認知症の進行具合が客観的にわかるようになっています。
MMSEは簡便に検査できることから、多くの臨床場面で使われています。
具体的にどういうところを見るの?
MMSEは以下の表に示す9つの項目を検査します。
項目名 | 項目の詳細 |
即時記憶 | 関係のない3つの言葉を聞いてすぐに復唱する、聞いた文章を復唱する |
遅延再生 | 関係のない3つの言葉を聞き、いくつかの質問の後に思い出す |
見当識(時間と場所) | 今日は何年・何月・何日・季節は何か、ここは何県・何市・何病院・何階・何地方か |
注意と計算能力 | 100から順に7を引き、計算をする |
物品呼称 | 目の前のものが何かを答える |
3段階の口頭命令 | 3つの命令を言われたとおりに行う |
書字 | 自由に文章を書く |
読字 | 書いてある内容を読んだ後に行う |
図形模写 | 2つの重なった五角形の模写を行う |
以上の項目に対する質問にいくつ正答できたかにより、点数が決まります。
また、MMSEで獲得した点数には、カットオフ値というものがあります。
カットオフ値ってどんな効果があるの?
カットオフ値とは「病態識別値」という、正常とみなされる範囲を区切る値のことです。
また、ある病気に罹患しているか検査をした場合に、陽性か陰性かを分ける分割点をあらわす際にも用いられます。
MMSEでは23/24点がカットオフ値とされ、23点以下は認知症の疑いがあると判断されます。
MMSEにおけるカットオフ値の必要性は、認知症の疑いがあるかもしくは正常の範囲内かを判断する目安になります。
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MMSEの結果で何がわかるのか
MMSEでは、認知症かどうかを判断できます。
ただし、MMSEの結果だけで認知症の診断を行うわけではありません。
認知症の診断は、以下のような項目をもとに行います。
- 問診・診察
- 病歴
- 症状の確認
- 神経心理検査
- 血液検査
- 脳画像検査
MMSEは、上記の4「神経心理検査」に該当します。
神経心理検査とは、認知能力の程度を客観的に測定する方法です。
具体的には記憶力・注意力・言語能力などを検査し、その能力を点数化します。
なお、MMSEの結果は、あくまで認知症を診断するための材料の1つに過ぎません。
認知症の診断は、MMSEの結果の他、医師の診察や血液検査・画像検査の結果を基に総合的に判断されます。
たとえば血液検査・画像検査で異常が見つかった場合、認知機能の低下の原因は、認知症以外の疾患が疑われます。
MMSEの結果が悪かったからといって、ただちに「自分は認知症だ」と落ち込む必要は無いのです。
MMSEだけじゃない!?認知症検査方法!
MMSE以外にも認知症の検査方法があります。
MMSEのような質問紙による検査や、周囲の人が点数付けするものなどさまざまです。
以下でいくつかご紹介します。
長谷川式簡易認知機能評価スケール
HDS-Rといわれ、MMSEと同様に、質問紙で認知症の疑いを簡易的に確かめる検査です。
検査項目はMMSEと似ていますが、HDS-Rは記憶力の項目を中心にみるものです。
HDS-Rは9つの項目に分類され、30点満点で構成されます。
HDS-Rは20点がカットオフ値とされ、20点以下は認知症の疑いがあると判断されます。
HDS-Rの平均点は24点前後で認知症がなくても満点になるとは限りません。
また点数別によるHDS-Rの認知症重症度は以下の通りです。
- 19点前後:軽度認知症
- 15点前後:中等度認知症
- 10点前後であれば高度認知症
また、MMSEのような文章を書く・命令に対して動くなどの課題(動作性課題)がないことが特徴です。
MMSEは世界各国で使われていますが、HDS-Rは日本でしか使われていません。
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認知症の日常生活自立度
認知症の日常生活自立度は、認知症の高齢者にどれだけ介護の手間がかかっているかを度合いによって分類したものです。
意思疎通の程度と、見られる症状・行動に着目し、日常生活の自立度を5区分に分けます。
自立度が高い順にⅠ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Mと分けられます。
主に要介護認定において、認定調査票や主治医意見書に記載されるものです。
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ADL+行動心理評価(新評価尺度)
認知症の方の生活場面を観察することで認知症の重症度を評価します。
その際、ADLに加え、行動・心理症状を同時に見ていくことが重要です。
それぞれ代表的な評価スケールをご紹介します。
ADLの評価には、基本的ADL6項目(排泄、着替え、食事、身だしなみ、移動能力、入浴)を見るPSMS(Physical Self-Maintenance Scale)があります。
また、ADLよりも複雑な動作や判断力が必要となる8項目(買い物、食事の支度、家事、電話、洗濯、移動・外出、服薬管理、金銭管理)を見るIADL(Instrumental Activities of Daily Living)が代表的です。
行動・心理症状は、12項目の行動に着目したNPI(Neuropsychiatric Inventory)がよく使われます。
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FASTの分類(進行度・程度分類)
FAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer’s Disease)は、アルツハイマー型認知症の重症度を評価するものです。
FASTは日常生活でできないことの程度により、以下のように進行度を分類できます。
- FAST1 正常
- FAST2 年相応
- FAST3 境界状態
- FAST4 軽度のアルツハイマー型認知症
- FAST5 中等度のアルツハイマー型認知症
- FAST6 やや高度のアルツハイマー型認知症
- FAST7 高度のアルツハイマー型認知症
例えば、物の置き忘れ程度では「年相応」と判断されます。
洋服が選べない、風呂に入るのを嫌がり説得してようやく入る程度では、「中等度のアルツハイマー型認知症」と判断されます。
日常生活でできないことの程度を見るため、今後あらわれる症状についても説明することができます。
BPSD評価(NPI、DBD、Behave AD)
NPIは以下の表に示すBPSDの項目において、頻度・重症度・介護者の負担度を数量化できるものです。
妄想 | 幻覚 | 興奮 | うつ | 不安 | 夜間行動 |
多幸 | 無関心 | 脱抑制 | 易怒性 | 異常行動 | 食行動 |
DBD(Dementia Behavior Disturbance Scale)は、28項目の行動・心理症状がどの程度出現するかを5段階に分けて評価するものです。
介護者が各項目の出現頻度を、
- まったくない(0点)
- ほとんどない(1点)
- ときどきある(2点)
- よくある(3点)
- 常にある(4点)
の5段階で評価し、総得点(最高112点)を算出します。
点数が高いほど問題行動の頻度が高く、点数が低いほど頻度が低いといえます。
介護者が観察によって、出現頻度だけを評価するため簡便です。
また、特別な知識や評価に際しての練習を積まなくとも行えます。
Behave ADは、アルツハイマー型認知症の行動・心理症状25項目を、重症度4段階で評価します。
介護者からの聞き取りによって簡便に行えますが、重症度のみの評価で頻度の評価はできません。
MMSEって本当に大丈夫?信憑性は?
MMSEの日本版(MMSE-J)の妥当性と信頼性を検証した研究によると、MMSE-Jは認知症のスクリーニング検査として、十分に使用可能との結果が出ています。
以下の研究から、MMSE-Jの妥当性と信頼性が認められたのでご紹介します。
1.MMSE-Jの妥当性についての研究では、健常・MCI(軽度認知障害)・AD(アルツハイマー病患者)と分類された方(計313名)にMMSE-Jを行ったところ、妥当性が認められました。
2.313名のうち、6か月後にもう一度MMSE-Jを行った142名を、4つの心理テストによって分類(健常者・MCI群とAD群の計2群)しました。
2群にMMSE-Jを行ったところ、妥当性が認められました。
3.142名のMMSE-Jの結果に着目し、1回目と2回目の結果を比較すると、検査の信頼性が認められました。
上記の研究結果より、MMSE-Jは信憑性が高いといえます。
しかし、MMSE-Jはあくまでスクリーニング検査です。
点数が低いから必ず認知症、高いから正常であるとは断定できません。
テストの結果に加えて、
- 病歴、問診
- 身体所見
- 血液検査、画像所見(CTやMRI)
などの各検査を行い、初めて確定診断に至ることを知っておくとよいでしょう。
出典:Japanese Journal of Cognitive Neuroscience【MMSE-Jの妥当性と信頼性について】
MMSEにもデメリットがあることに注意!
MMSEは簡便に行えますが、HDS-Rと比較すると、文章理解、記述、描画などの要素がある点で異なります。
MMSEのみにある要素は、学歴や職歴による影響を受けやすいです。
例えば、識字率が低い国の方では、質問に口頭で答えられても記述ができない場合もあります。
テスト上では減点でも、識字ができないことが理由であれば、認知機能の問題であるか判断ができません。
そのため、MMSEの結果のみを過信しないように注意する必要があります。
MMSEのまとめ
ここまでMMSEについてお伝えしてきました。
MMSEについての要点をまとめると以下の通りです。
- MMSEでは記憶力や見当識の他、文章理解、記述、描画などの能力も検査できる
- MMSE以外の認知症検査方法には、日常生活の自立度や行動・心理症状を検査できるものもある
- MMSEは検査の信頼性があるものの、あくまでスクリーニング検査である
- MMSEのデメリットは学歴や職歴の影響を受けやすいことにあり、純粋な認知機能の低下と判断できない場合もある
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。