介護度が上がったり、介護サービスを利用する頻度が高くなると経済的に負担がかかります。
そのような経済的問題を少しでも緩和するのが「世帯分離」です。
介護保険料が減額できるケースがあるので、ぜひその仕組みとメリット・デメリットを把握しておきましょう。
- 世帯分離を行う目的
- 世帯分離するメリット、デメリット
- 世帯分離を行う方法
ぜひ最後までご覧いただき、世帯分離したほうがいいかどうかの判断にお役立てください。
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世帯分離とは?
世帯分離とは、介護保険減額を目的とするものではありません。
本来、世帯分離をすることの目的は、所得が少ない方の所得税をできるだけ抑えて経済的な負担を軽減する目的で行われるものです。
たとえば定年退職した親世代、働き盛りの子世代が同一世帯だとしましょう。
世帯が一緒だと、年収の高い子世代が所得税の対象となります。
しかし世帯分離を行うとリタイヤした親世代の所得が課税対象となります。
世帯年収は激減し、そのため住民税非課税世帯となります。
住民税が非課税になると、今度はそれに連動して国民健康保険料や介護保険料の減額といった経済的なメリットが出てくるのです。
さらに、世帯分離によって世帯単位での収入が減少、介護保険の自己負担額が下がる可能性もあります。
介護保険についてはこちらの記事に詳しく載っています。
高齢化が進み、要介護者の増加や介護期間の長期化などがみられるようになりました。また、老老介護という言葉もあるように介護する家族も高齢化しています。そういった現状を踏まえ、介護の負担を減らすために作られた制度が介護保険です。[…]
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世帯分離のメリットは?
世帯分離をすることで、介護保険など介護に関係する費用にどのようなメリットがあるのでしょう。
介護保険料の負担額を減額できる
介護保険料は所得に応じて負担額が変わる変動制です。
介護保険料は各世帯ごとの収入によって算出されるので、収入が多ければ多いほど介護保険料は高くなります。
世帯分離することにより親世帯のみの収入に対して算出されるため、その結果として負担が減る可能性があります。
介護サービス費用を軽減できる
親の介護が必要になった場合でも、世帯分離を行うことにメリットがあります。
介護費用を軽減できる可能性がありますので、みていきましょう。
自己負担額を減らせる
介護サービスを利用する際、1割から3割までの費用を負担する必要があります。
介護保険負担割合証に記載されている自己負担割合に応じ、割合が変わります。
世帯分離を行い、親の世帯収入が減れば、自己負担額が減る場合もあります。
【65歳以上の人が世帯に1人の場合】
1割負担 | 本人の合計所得金額が160万円未満、もしくは本人の年金収入とその他の合計所得が280万円未満 |
2割負担 | 本人の合計所得金額が160万円以上220万円未満で年金収入とその他の合計所得が280万以上、もしくは本人の合計所得金額が220万円以上で年金収入とその他の合計所得が340万円未満 |
3割負担 | 本人の年金収入とその他の合計所得が340万円以上 |
【65歳以上の人が世帯に2人の場合】
1割負担 | 本人の合計所得金額が160万円未満、もしくは本人の合計所得金額が220万円未満で本人と同一世帯の65歳以上の方の年金収入とその他の合計所得が346万円未満 |
2割負担 | 本人の合計所得金額が160万円以上220万円未満で本人と同一世帯の65歳以上の方の年金収入とその他の合計所得が346万円以上、もしくは本人の合計所得金額が220万円以上で本人と同一世帯の65歳以上の方の年金収入とその他の合計所得が463万円 |
3割負担 | 本人の合計所得金額が220万円以上で本人と同一世帯の65歳以上の方の年金収入とその他の合計所得が463万円以上 |
出典:厚生労働省【現役並みの所得のある方は、 介護サービスを利用した時の 負担割合が3 割になります】
自己負担額の上限を下げられる
1ヵ月間に支払う自己負担額には限度額が設定されています。
自己負担の限度額を超えた場合の費用が支給される制度が「高額介護サービス費」です。
高額介護サービス費は所得に応じて自己負担限度額が決まります。
限度額を超えると、申請により払い戻しを受けることが可能です。
世帯を単位としているため、世帯分離を行い親の世帯収入が下がれば、費用を軽減できます。
ただし、以下の利用料は高額介護サービス費の対象とならないのでご注意ください。
- 介護保険の給付対象外の利用者負担分
- 支給限度額を超え、全額自己負担となる利用者負担分
- 福祉用具購入にかかる負担
- 施設における居住費および食費
- 理美容代などの日常生活に要する実費
【自己負担の上限額】
所得区分 | 上限額(月額) | |
課税所得690万円以上 | 140,100円(世帯) | |
課税所得が380万円以上690万円未満 | 93,000円(世帯) | |
課税所得が380万円未満 | 44,400円(世帯) | |
世帯の全員が市町村民税非課税 | 24,600円(世帯)15,000円(個人) | |
前年の公的年金等収入額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下の方等 | ||
生活保護等を受給されている方 | 15,000円(個人) |
出典:厚生労働省【高額介護サービス費の負担限度額】
国民健康保険料を減額できる場合がある
国民健康保険料も介護保険料と同じように、前年の所得によって算出されます。
子どもと同一世帯よりも世帯分離して親だけの収入のみの方が収入が減る場合、国民健康保険料も介護保険料と同じように減額できる可能性があります。
後期高齢者医療保険料を減額できる場合がある
後期高齢者医療保険料は、75歳以上の方全てが負担しなければなりません。
保険料は「所得割」で決められており、世帯全体の年収に応じて算定されます。
親と子が同一世帯よりも、それぞれ世帯分離になっていると親世帯は総所得が減る可能性があり、その結果として後期高齢者医療保険料を減額できるかもしれません。
介護施設費用の負担額を減額できる
介護施設や療養型の病院では、居住費、食費といった自己負担限度額が世帯の収入によって決められています。
世帯分離により世帯主の収入が減収すれは、それだけ自己負担費用を減らせる可能性があります。
介護保険料が免除になる条件はこちらで解説しています。
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世帯分離にはデメリットもある
世帯分離は、いいことばかりではありません。
デメリットもあるので、現状に照らし合わせて検討しましょう。
介護に関わる費用の合算が出来ない
たとえば、世帯分離する前に2人以上の要介護の方がいた場合、介護保険サービス費用は合算して超過分は「高額介護サービス費制度」により払い戻しされました。
しかし、世帯分離によって一世帯に一人となった場合には今までのように合算ができなくなります。
合算ができないため、申請後の払戻額も少なくなります。
親が扶養から外れる
会社から扶養手当をもらっている場合には、世帯分離することで親が扶養から外れるため扶養手当をもらえなくなります。
国民健康保険料の負担額が増える可能性もある
メリットの中で国民健康保険料の負担が減る可能性があると紹介しました。
しかし、増えるケースもあるので注意が必要です。
世帯が別になることで、それぞれの世帯主が国民健康保険料を納める必要があります。
2つの世帯の保険料を合算すると、一世帯で支払っていた保険料よりも高くなってしまう可能性もあり、世帯の総額を考えて検討する必要があります。
会社の健康保険組合を利用した方が良い場合がある
同一世帯の場合、世帯主の扶養家族として会社の健康保険組合制度が利用できます。
しかし、世帯分離してしまうと扶養家族から抜けるため会社の健康保険組合を利用することができなくなります。
役所の手続きが不便になる可能性もある
同一世帯であれば役所の手続きも一緒にできますが、分離世帯にすることで各々の世帯での手続きが必要になります。
世帯分離のデメリットについてはこちらで詳しく説明しています。
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世帯分離で得する人・損する人とは?
世帯分離ではメリット・デメリットがあり、分かりにくい点もあります。
そこで、世帯分離で得する人と損する人の境界線を説明しましょう。
得する人は?
介護保険サービスを利用するときには、収入によって自己負担限度額が違ってきます。
もちろん、収入が低いほど自己負担金限度額が小さくなっていきます。
一般的に高齢者は、年金暮らしというケースが多いので世帯分離することが前提といってもいいでしょう。
また、介護施設サービスの利用や介護度の高い方ほどお得です。
介護施設を利用するときには「特定入所者介護サービス費」という制度があります。
もし、第一段階から第三段階に該当すれば負担が軽減します。
さらに、介護度が高ければ高いほど利用限度額が大きくなるため世帯分離は考えてもいいでしょう。
損する人は?
世帯分離によって一世帯で2人以上の介護が必要な場合、合算超過する部分の払い戻しができなくなり、割高になってしまうことがあります。
世帯分離の手続きをするためには?
実際に同一世帯から世帯分離をする場合、どのような手順で行うのでしょうか。
注意点などを踏まえて解説します。
手続きする場所
世帯分離をする場合は、住民登録している市区町村で行います。
届け出ができるのは、本人、世帯主、あるいは委任状を持った代理人になります。
世帯分離に必要な書類
必要な書類は「住民異動届」「本人確認できる書類」「印鑑」、国民健康保険に加入している場合には「国民健康保険証」です。
世帯分離の手続きで注意すること
世帯分離の理由を聞かれることがあるかもしれません。
その場合には「生計を別々にすることになったから」と答えます。
なぜなら、介護保険料や介護費用の負担軽減を目的とした世帯分離は認められていないからです。
親と子が世帯分離をするのは、それほど難しいものではありません。
これが夫婦の世帯分離となると手続きが煩雑になります。
明らかに生計が別々であることの証明を持参しなくてはならず、手続きが煩雑になる可能性があります。
夫婦間の世帯分離については、こちらの記事を合わせてご覧ください。
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場合によっては戻すことも可能
世帯分離をしたあと、元に戻すことができるかどうか心配になるところです。
結論からすると、元の同一世帯に戻すことは可能です。
用意する書類は「本人確認書類」「届人の印鑑」「世帯合併の双方の国民健康保険」「住民異動届」です。
これらを揃えて、変更が発生した日から14日以内に市区町村の住民課や戸籍課に届けます。
ただし法律上は世帯合併の条件を満たしていても、世帯分離したときの目的が利益享受が目的だった場合、断られるケースもあります。
また、明らかに住居や家計を一緒にしていない場合などでも断られることがあります。
しかし生活の実態が世帯を同一にした方がいいという状況であれば、市区町村側で拒否することはできません。
世帯分離と生活保護
費用負担の軽減として「生活保護」があります。
世帯分離を行っても、生活保護を受けることはできるのかどうかについて解説します。
厚生労働省は、生活保護制度の定義を「生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長すること」としています。
そして、生活保護は世帯単位で行います。
世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提です。
また、扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先するとしています。
出典:厚生労働省【生活保護制度 |厚生労働省】
生活保護の単位は「世帯」です。
そして、福祉事務所に世帯として認定されることを「世帯認定」といいます。
生活保護の相談・申請窓口は、お住まいの地域にある福祉事務所の生活保護担当です。
福祉事務所には独自の審査基準があり、地域によっては世帯の定義が変わります。
そのため、生活保護を受ける際の世帯分離とは住民票上の世帯とは異なります。
今回の場合の世帯分離とは、福祉事務所からの世帯認定から外れることをいいます。
なお、生活保護は介護費用の軽減を目的とした制度ではありません。
そのため、世帯分離をして生活保護を受けることは基本的には困難です。
しかし、生活保護を受けるために世帯分離ができる以下のケースもあります。
【住む家を別にする】
生活保護受給の場合の世帯分離では、住居及び生計を別にすることで対象になります。
【介護保険施設に入居してもらう】
特別養護老人ホームなどの介護保険施設に入居する場合であれば、対象となります。
しかし、介護老人保健施設は対象外です。
生活保護と介護保険の関係についてはこちらをお読みください。
生活保護受給者にとって介護サービスが利用できるか心配になると思います。結論を先に申し上げると、介護サービス自体は受けられます。ただし介護保険料の納付義務は生活保護受給者の年齢が65歳以上か、64歳以下で被保険者になったり、ならな[…]
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生活保護者が大学に進学するには世帯分離が必要?
世帯分離は高齢の親だけでなく、大学等に進学する子どもにも関係があります。
生活保護世帯の大学等への進学率は、生活保護を受けていない一般世帯の半分以下です。
背景には、保護世帯の子どもは高校を卒業したら働くべきという国の考えが存在します。
そのため、生活保護を受けながら大学等への進学を認めていないということがあります。
子どもが大学等に進学すると、子どもの分の生活保護費が打ち切られてしまうのです。
生活保護世帯の子供が大学等に進学するには、世帯分離をしなければいけません。
しかし、入る保護費が減るため子どもが必要な費用を準備する必要も出てきます。
また扶助費が減ったことにより、引っ越しを検討する場合も少なからず増えています。
そして、生活保護による負の連鎖が止められない状況にあるのです。
出典:厚生労働省【生活保護世帯出身の大学生等の生活実態の調査・研究等一式】
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介護保険と世帯分離のまとめ
ここでは世帯分離することで、介護保険料などが軽減できることなどを紹介してきました。
その要点を以下にまとめます。
- 世帯分離とは、住んでいる場所が一緒でも住民票の世帯主を分離すること
- 世帯分離するメリットは、所得税が少なくなって介護保険料などが軽減される
- 世帯分離するデメリットは、扶養家族ではなくなるため税制上不利になることもある
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。