年を取ると忘れっぽくなるのはなぜでしょう。
私たちの脳は、どのようにして記憶するのでしょう。
記憶のメカニズムはとても複雑です。
本記事では記憶のメカニズムについて以下の点を中心にご紹介します。
- なぜ忘れてしまうのか
- 記憶の種類とメカニズムとは
- 男性脳と女性脳のメカニズムとは
記憶のメカニズムについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。
脳の主な構成と機能
脳は非常に複雑なメカニズムを持ち、運動や知覚などの情報伝達を司る臓器です。
さらに感情や理性といった精神活動でも重要な役割を担っています。
情報は脳にあるニューロンという神経細胞が伝えます。
ニューロンの先のシナプスがニューロン同士をつなぎ、次々と情報を伝達していきます。
神経細胞をすべてつなげると、実に100万kmになるといわれています。
脳は大きく分けると次のような4つに構成されています。
- 大脳
- 間脳
- 脳幹
- 小脳
また、右脳と左脳にも特徴的な働きがあります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
大脳
一般的な脳をイメージするのは大脳です。
中枢神経の司令塔として、運動や知覚情報の収集と分析を担っています。
大脳には特徴的なシワだらけの表面を持ちます。
これを大脳皮質と呼び、溝に沿って「前頭葉」「側頭葉」「頭頂葉」「後頭葉」に分かれます。
それぞれの部位は、運動、知覚、言語、視覚などの機能中枢が配置されています。
間脳
間脳は、脳幹の一部である中脳と大脳の両方に接続しています。
間脳は「視床脳(ししょうのう)」と「視床下部(ししょうかぶ)」から構成されています。
視床下部は自律神経の中枢で、体液量、体温、食欲など生命を維持する働きがあります。
脳幹
脳幹は「中脳」「橋(きょう)」「延髄」の3つの部位から構成されています。
脳幹は神経線維の大動脈として、すべての運動指令、感覚指令が通過する場所です。
意識しない運動である不随意機能をコントロールします。
呼吸、消化、循環だけでなく、嚥下、咳、くしゃみなどの反射機能も担います。
小脳
身体のバランスを維持する働きを担います。
平衡機能や筋肉の緊張維持をすることで、スムーズで正確な運動をコントロールします。
右脳と左脳
左右の脳は、それぞれ異なる働きをしています。
右脳は創造性思考を、左脳は言語論理的思考を担っています。
左右の脳は、「脳梁(のうりょう)」でお互い連携を取り合っています。
右脳と左脳からの指令は、延髄の部分で交差しています。
そのため、右脳にダメージを負うと左半身に障害が出てしまいます。
脳科学における記憶のメカニズム
私たちは、日常的に記憶と忘却を繰り返しています。
そのメカニズムは非常に複雑です。
記憶の手順
記憶するまでのメカニズムには「記銘」「保持」「想起」という3つのプロセスがあります。
記銘とは覚えることで、意識的に情報を脳にインプットすることです。
保持とは脳にインプットした情報を維持し続けることです。
想起とは思い出すことで、インプットした情報を引き出すことです。
この一連のプロセスがセットになって記憶を司ります。
なぜ、忘れてしまうのか
忘れてしまうというメカニズムには、2つの可能性があります。
ひとつは、時間が経つことで記憶が褪せて行ってしまうことです。
たとえば、今朝食べたものは思い出しても、1週間前に食べたものは忘れてしまいます。
もうひとつは、似たような記憶同士が干渉しあって、忘れてしまうことです。
たとえば、1日に何人もの人と会っていると、顔の記憶がごちゃ混ぜになってしまいます。
記憶を支える脳の場所によって記憶の衰退・干渉が起こっていることもわかってきました。
記憶の重要な働きを担う「海馬」は、似た記憶でも区別できるという特殊能力があります。
海馬に一度保存された記憶は、ほかの記憶に干渉されることはありません。
しかし、ほかの場所に保存されると衰退・干渉を起こすことがわかっています。
夢の内容が思い出せないのはなぜ?
夢をよくみるという人と、全くみないという人がいます。
夢は、どのような人でも必ずみるもので、ただ思い出せないというだけです。
それには、睡眠のメカニズムが関係しています。
睡眠には深い眠りである「ノンレム睡眠」と浅い眠りである「レム睡眠」があります。
ひと晩に交互に繰り返すのが眠りのメカニズムです。
夢をみるのは、眠りの浅いレム睡眠時です。
起床する直前の眠りの状態がレム睡眠であれば、夢を覚えている可能性が高くなります。
一方でノンレム睡眠であれば、夢をみたことを忘れてしまう可能性が高くなります。
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さまざまな要因と記憶との結びつき
その日起こった印象的なことや年齢など、記憶と結びつく要因はさまざまです。
老化
老化による物忘れのメカニズムは、脳細胞が減って萎縮することから始まります。
加齢とともに脳細胞が変性し、記憶・認知機能が衰えていきます。
記憶力の低下は、中年期以降に現れ、老齢期になると物忘れが激しくなります。
飲酒
お酒を飲み過ぎて記憶喪失になることがあります。
酩酊状態になって、気が付いたら家に帰っていたという経験を持つ方もいるでしょう。
ある時点から、記憶がなくなってしまった状態です。
お酒による記憶喪失のメカニズムは、血中のアルコール濃度に関係しています。
急激にアルコール濃度が上昇すると、記憶を司る海馬に影響を与えます。
一過性の健忘症のように、海馬の神経細胞が一時的に機能しなくなると考えられています。
ストレス
ストレスが原因となる記憶障害があります。
それは「解離性健忘」と「一過性健忘」です。
解離性健忘は、心理的に大きなショックを受けたときに記憶がなくなってしまいます。
時間の経過とともに記憶は戻ってきますが、人によってその期間は違ってきます。
一過性健忘は、脳の障害がないのに一時的に記憶障害が起こる症状です。
中年以降の方に多く見られます。
発症後に起こったことが記憶できない「前向性」、発症の数分前から数時間前の記憶を失う「逆行性」があります。
ストレスか引き起こす記憶障害について詳しく知りたい方は以下の記事も併せてご覧ください。
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恐怖体験
人は、恐怖体験をするとそれがトラウマになってしまうことがあります。
いわゆるPTSDと呼ばれる症状です。
PTSDの中でも回避や解離症状では、恐怖体験の記憶をなくすことがあります。
これは、心が受け止めきれないことが起こったとき、自分を守るためともいわれています。
睡眠
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、それぞれ記憶に重要な役割を担っています。
レム睡眠
レム睡眠とは、身体を休めるための眠りです。
脳は働いていますが、身体は休息をとっています。
脳は働いているので、このとき私たちは夢をみることになります。
レム睡眠のときには、新たな記憶を昔の記憶と関連付ける作業が行われています。
さらに、次に思い出しやすいように記憶を定着させる働きもあります。
ノンレム睡眠
ノンレム睡眠とは、脳を休めるための眠りです。
脳は深く休息していますが、体は動いています。
脳が休んでいるため、夢をみることはありません。
深いノンレム睡眠では、日中の「イヤな記憶」を消去する働きをします。
睡眠不足が身体に与える影響について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
記憶の種類とメカニズム
記憶には、大きく分けて3つの種類があります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.短期記憶
短期記憶とは、いくつかの情報を一時的に保存する記憶のメカニズムです。
たとえば、試験前に単語や漢字を大量に覚えたのに、翌日にはすっかり忘れていた。
このような記憶が短期記憶です。
短期記憶では個人差はあるものの、一般的な成人で5~7程度の情報しか覚えられません。
短期記憶のメカニズムでは、一時的な情報置き場としての機能しかないからです。
長期記憶に送らなければ、すぐに忘れてしまいます。
以下の記事では短期記憶障害について解説しておりますので、ぜひご覧ください。
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2.長期記憶
長期記憶とは、大量の情報を長期間保存する記憶のメカニズムです。
短期記憶を何度も繰り返すことによって、長期保持されます。
そして、長期記憶は記憶が定着しているため、いつでも取り出すことができます。
自分の名前、身につけたスキルなどは、忘れることのない長期記憶となります。
以下の記事では長期記憶障害について解説しておりますので、ぜひご覧ください。
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3.感覚記憶
感覚記憶とは、感覚器官から送られてきた情報を一瞬記憶するメカニズムです。
視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚など、あらゆる感覚から情報を受け取ります。
しかし、それらをすべて短期・長期的に記憶するとしたら、脳がパンクしてしまいます。
そのため、感覚記憶のような情報は一瞬にして忘れ去られるメカニズムになっています。
短期記憶よりもさらに短い、0~2秒程度の保持時間だといわれています。
例えば英語を学びたい!ときの考え方
英語が上達したいと考えるなら、長期記憶に重点を置くべきでしょう。
脳の記憶のメカニズムは、消去法が基本です。
短期記憶に頼って単語を一生懸命に覚えても、ほとんど忘れてしまいます。
そのため単語は書けても、文脈が必要となる会話が上達することが難しくなります。
英語が上達したい、あるいは英語が話せるようになりたいという場合の勉強法があります。
それは、とにかく反復練習をして短期記憶から長期記憶へと移行することです。
そして、長期記憶を駆使して、応用力を育てることです。
「男性脳・女性脳」における医学的根拠
よく脳には「男性脳」と「女性脳」があるといわれています。
しかし、この考え方は今では古いとされ、男女に関係なく個性と位置付けられています。
男性脳の特徴
男性脳には以下のような特徴があるとされています。
空間認知能力が高い
男性脳は、空間を立体的に理解することが得意だといわれています。
たとえば、地図を正確に理解し、また書くことができます。
ひとつのことしかできない
男性脳はひとつのことにしか集中できず、マルチタスクをこなすのが苦手です。
ひとつずつ片付けて前に進むタイプといえます。
結果や解決を求めたがる
男性脳は、プロセスよりも結果を重視する傾向があります。
いかに効率よく目標に到達できるのかを重要視します。
恋愛を引きずりやすい
男性脳は、恋愛を引きずりやすい傾向があります。
男性にストーカーが多いのは、別れても未練を引きずるためです。
女性脳の特徴
女性脳には以下のような特徴があるとされています。
共感できる
女性に相談ごとをするとき、結論が先ではなく、相談者の感情に共感します。
女性脳は、仲間意識、つながりを重要視し、対立よりも均衡を大切にします。
言語機能が発達している
男性よりも女性の方がおしゃべりの人が多いという傾向があります。
これは、会話の処理能力、言語機能が女性脳の方が発達しているからです。
マルチタスクに長けている
女性脳では、ひとつのことをしながら、いくつかのことも同時にこなすことができます。
掃除や料理など、家事全般にしても女性脳のほうがサクサクと要領よくこなします。
恋愛に引きずられない
失恋したときは、女性も男性と同じようにショックを受けます。
女性脳と男性脳の違いは、この先にあります。
女性脳は意外とサバサバしており、次の恋愛相手をみつけようとします。
医学的根拠
よく男性と女性では脳の仕組みが若干異なり、男性脳と女性脳があるといわれます。
その結果、それぞれの脳に向いている働き方や社会貢献があるとされてきました。
果たして、それは事実なのでしょうか。
研究の結果、男女での統計的な差はみられず、むしろ個人差が大きいことがわかりました。
脳は、社会的、経験的、教育的な環境によって柔軟に変化するものです。
つまり、生まれながらにして男性脳、女性脳を持っているわけではありません。
女性でも男性脳を、男性でも女性脳を、そして両方持っている人もいるということです。
出典:四本裕子「脳や行動の性差」
脳が元気でいるためにできること
いくつになっても、記憶力がしっかりとした高齢者はたくさんいます。
記憶力だけでなく、総合的に脳が元気な状態にしておきたいものです。
どのようなことをすれば、いつまでも脳が元気に活動してくれるのでしょうか。
生活習慣を見直す
脳がいつまでも元気でいるためには、病気にならないことです。
脳梗塞、脳卒中などにならないためにも、生活習慣を見直しましょう。
たとえば、ウォーキングなどの運動を習慣として続けましょう。
記憶を司る領域の収縮を防ぐことができます。
また、脳の栄養になるものを積極的に摂りましょう
青魚やナッツなどに多く含まれる不飽和脂肪酸は、脳神経細胞を修復する効果があります。
新しいことに出会う
年齢を重ねると、新しいことにチャレンジする意欲や体力もなくなってきます。
しかし、これでは脳に刺激を与えられません。
たまには、いつもと違ったことにチャレンジしてみてはいかがでしょう。
難しいことをしなくても、いつもの散歩コースを変えるだけでもいいのです。
違った景色を見ることや新しい発見をすることで、脳が活性化されます。
脳トレクイズやゲームで鍛える
知的な活動は、記憶力を引き上げてくれます。
新しいことを学んだり、テレビゲームや脳トレクイズなどに挑戦してみましょう。
とくにテレビゲームは、同時に指を動かします。
体力がなくてもできるので、高齢者にはおすすめです。
記憶とメカニズムのまとめ
ここでは、記憶とメカニズムについて紹介してきました。
その要点を以下にまとめます。
- 忘れてしまうのは、記憶が褪せることやほかの記憶に干渉されるから
- 記憶の種類には「短期記憶」「長期記憶」「感覚記憶」がある
- 男性脳と女性脳の区別はなく、むしろ個人の特性としてとらえる
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。