およそ100人に1人の割合で発症すると言われる「統合失調症」。
統合失調症の主症状として認知機能障害がありますが、「認知症」との違いはあるのでしょうか?
今回は認知症と統合失調症の違いについて、以下の点を中心に解説していきます。
- 定義と診断基準について
- 症状と治療方法の違いについて
- どの医療施設を受診すれば良いのか
認知症と統合失調症を混同してしまっている方も、2つの違いについて理解しておきましょう。
ぜひ最後までお読みください。
認知症について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読みください。
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認知症と統合失調症の違いとは?
まず認知症と統合失調症、それぞれの定義と診断基準の違いから説明していきます。
認知症の定義
世界保健機関による国際疾病分類(ICD-10)では、次のように定義され診断基準も示されています。
「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群」
【ICD-10による認知症診断基準の要約】
G1.以下の各項目を示す証拠が存在する | (1)記憶力の低下:新しい事象に関する著しい記憶力の減退 (2)認知能力の低下:判断と思考に関する能力の低下や情報処理全般の悪化 (3)(1)・(2)により日常生活や遂行能力に支障をきたす |
G2.意識混濁がないこと | – |
G3.次の1項目以上を認める | (1)情緒易変性 (2)易刺激性 (3)無感情 (4)社会的行動の粗雑化 |
G4.基準G1の症状が6か月以上続いている | – |
出典:日本神経学会「認知症の定義、概要、経過、疫学」
老化による「物忘れ」と区別がつきにくい方もいますが、認知症とは明らかに症状の内容・程度が違います。
認知症には原因となる疾患が存在します。
また、認知機能低下だけでなく暴言・暴力行為なども見られ、日常生活や社会生活に支障をきたします。
現在では診断技術が進み、軽度認知機能障害(MCI)や認知症初期段階の診断が可能となっています。
統合失調症の定義
脳の機能低下により、情報を統合する能力が低下している精神疾患の1つです。
つまり、考えや感情がまとまらない状態になるということです。
個人差はありますが、代表的な症状としては次のものがあります。
- 幻覚(あるはずのないものが見える)
- 被害妄想(誰もいないのに自分の悪口を話しているのが聞こえる)
診断基準としては以下のものが使われます
名称 | 機関 | 分類対象 |
ICD-10 | 世界保健機関(WHO) | 疾患全般 |
DSM-5 | アメリカ精神医学会 | 精神疾患のみ |
ICD-10とDSM-5の診断基準に特に大きな違いはありません。
ICD-10とDSM-5の診断基準の重要な点をまとめると以下の通りです。
(ア) | 妄想 |
(イ) | 幻覚 |
(ウ) | 支離滅裂な会話・行動 |
(エ) | 陰性症状(無感情、会話の貧困など) |
- (ア)~(エ)のうち2つ以上が6か月以上続いている
- 症状によって、日常生活・社会生活に著しい悪影響を及ぼしている
「統合失調症は100人に1人の割合で発症する」と言われています。
統合失調症は、決して珍しい病気ではありません。
統合失調症について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読みください。
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認知症と統合失調症の症状の違い
認知症と統合失調症は定義・診断基準が全く違います。
また、それぞれの症状にも大きな違いがあります。
認知症と統合失調症の具体的な症状の違いについて解説していきます。
認知症
認知症には以下の症状があります。
- 中核症状
- 周辺症状
中核症状は、脳の病変による認知症の本質的な症状です。
中核症状には下記のものが該当します。
- 記憶障害
- 見当識障害(時間や場所が分からなくなる)
- 理解・判断力の低下
- 遂行機能障害(計画的な行動ができない)
- 失行(手足は動くが、どうしてよいか分からない)
- 失認(見えている物が何か分からない)
周辺症状は、中核症状から派生した下記の症状のことをいいます。
- 妄想
- 抑うつ
- 興奮状態
- 徘徊
- 幻覚
本人の精神状態、性格などが周辺症状に影響してきます。
また、周囲に認知機能低下について指摘され、次第にうつ状態に陥いることも珍しくありません。
認知症は、原因となる疾患によって、主に下記の3つに分類されます。
- アルツハイマー型
- 脳血管型
- レビー小体型
アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も多いのがアルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症は男性よりも女性に多く見られるのが特徴です。
進行的に脳細胞が減少・萎縮して次の症状がみられます。
- 記憶障害
- 見当識障害
- 判断力の低下
脳血管性認知症
脳血管疾患により脳が損傷してしまうことで引き起こされます。
脳の損傷部位によっては、保たれる機能と障害が起こる機能があります。
例として、記憶力は保たれていても判断力が低下する「まだら認知症」があります。
レビー小体型認知症
レビー小体という神経細胞にできる特殊なタンパク質が脳に蓄積することで起こります。
レビー小体が神経細胞の変性・脱落を起こし、認知症が発症します。
レビー小体型認知症は特徴として下記の症状があります。
- 認知機能低下
- 幻視
- パーキンソン症状(振戦・固縮・無動)
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統合失調症
統合失調症の原因について、はっきりとした理由は不明ですが、以下のものが影響していると考えられています。
- 遺伝によるもの
- 神経伝達物質の乱れ、ストレス
- 周囲の環境
統合失調症の症状は下記の3つに分類することができます。
- 陽性症状(幻聴、妄想など)
- 陰性症状
- 認知機能障害
陽性症状
統合失調症の主症状として知られるのが陽性症状です。
陽性症状の具体的な例は以下の通りです。
幻覚、妄想 | 本来そこにないものが見える、聞こえる、感じる症状 |
行動異常 | 興奮状態、大声で叫ぶ |
思考障害 | 考えがまとまらない、混乱 |
陰性症状
精神機能の低下により起こるのが陰性症状です。
陰性症状の具体的な例は以下の通りです。
感情鈍麻 | 喜怒哀楽の表現がない |
意欲低下 | 行動するのが難しくなる |
コミュニケーション能力の低下 | 発語が乏しくなる |
認知機能障害
統合失調症では精神症状のほか、次のような認知機能障害も起こります。
- 記憶力低下
- 注意、集中力低下
- 判断力の低下
統合失調症は突如発症することがあります。
また、発症から徐々に症状が悪化していく場合もあります。
統合失調症の症状は人それぞれですが、いずれも日常生活だけでなく、仕事面や対人交流に大きな支障をきたしています。
認知症と統合失調症の治療方法の違い
認知症と統合失調症は、どちらも脳の機能低下から発症するものですが、治療方法にも違いがあります。
認知症
認知症を根本的に治療するのは難しいとされています。
しかし、原因によっては根本的な治療が期待できるとされています。
治療可能とされる主な原因は下記の通りです。
- 頭蓋内病変
- 感染症
- 代謝障害
- 薬物などによるもの
認知症の治療方法としては、薬物療法があります。
また、生活能力などの向上を目的とする生活機能回復訓練が挙げられます。
薬物療法
アルツハイマー型認知症の中核症状に対して、薬物療法は記憶力低下を遅らせる効果があるといわれています。
承認されている主な認知症薬と働きについては、次の物があります。
一般名 | 薬効分類名 | 効能 |
ドネペジル塩酸塩 | コリンエステラーゼ阻害薬 | アセチルコリン(重要な神経伝達物質)を分解する酵素の働きを抑える |
メマンチン塩酸塩 | NMDA受容体拮抗薬 | グルタミン酸(神経伝達物質)の働きを整え、神経細胞を保護する。 |
ガランタミン臭化水素塩酸 | アルツハイマー型認知症治療剤 | コリンエステラーゼ阻害薬の成分を持つ アセチルコリンの感受性を高め改善する |
幻覚や妄想などの周辺症状に対しては、抗精神病薬を用いることがあります。
認知症の薬について詳しく知りたい方は下記の記事も併せてお読みください。
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生活機能回復訓練、精神療法
生活機能回復訓練とは、日常生活に支障をきたしている認知症の方に行う訓練です。
生活機能回復訓練には看護師や介護福祉士、リハビリスタッフが対応します。
主な訓練、療法は次の通りです。
- 日常生活訓練
- 行動療法(心のストレスを軽くする)
- 運動療法
認知症の方の精神状態の安定を目的に、音楽療法・芸術療法なども実施されています。
統合失調症
統合失調症の治療としては薬物療法が一般的です。
しかし、心理社会的に援助していくことも重要視されています。
薬物療法
主に抗精神病薬が用いられます。
抗精神病薬には次の2種類があります。
- 従来型抗精神病薬
- 新規抗精神病薬
従来型抗精神病薬は、ドーパミンの働きを抑制します。
また、陽性症状の改善も得られます。
しかし、副作用として陰性症状を悪化させてしまう可能性もあります。
新規抗精神病薬は、ドーパミン以外の神経伝達物質への作用があります。
また、陽性症状・陰性症状の改善が見込めるとされています。
心理社会的な治療
統合失調症の治療は薬物療法だけではありません。
現在では、下記の方法も積極的に行われています。
作業療法 | 作業を通じて心身機能の回復、コミュニケーションを図る |
認知行動療法 | 幻覚や妄想への対処法を訓練する |
生活技能訓練 | 日常生活場面を想定した、グループでの対処法訓練 |
心理教育 | 本人やご家族に対し、病気・治療について学習してもらう |
認知症と統合失調症に対応する医療機関と受診外来は以下の通りです。
種類 | 医療機関 | 受診外来 |
認知症 | 病院 | 精神科、脳神経内科、老年脳神経外科 |
認知症専門クリニック | ||
認知症専門疾患医療センター | ||
老人性認知症専門病棟 | ||
老人性認知症疾患療養病棟 | ||
統合失調症 | 病院 | 精神科 |
精神科病院 | ||
メンタルクリニック |
65歳以上は5人に1人が認知症!?
現在、65歳以上の認知症の方は約600万人と推計されています。
また、2025年には約700万人にまで増えるといわれています。
65歳以上の5人に1人が認知症になる計算です。
認知症の問題に対し、厚生労働省は、軽度認知障害(MCI)の早期発見・早期対応を促しています。
軽度認知障害とは「日常生活に支障をきたすほどではないが、記憶力の低下がある状態」のことです。
軽度認知障害は認知症の前段階であり、5年以内に認知症に移行すると言われています。
軽度認知障害は自分で気づけないことがあります。
軽度認知障害の早期発見にはご家族や周囲の人のサポートも必要です。
今後、より多くの方が認知症に対する理解を深めることが重要です。
また、協力して支え合っていく社会を創ることも課題となっています。
出典:厚生労働省「心の健康や病気、支援やサービスに関するウェブサイト」
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認知症と統合失調症の違いのまとめ
認知症と統合失調症について、症状や治療方法の違い、受診機関などについてご紹介しました。
本記事のポイントをおさらいすると、以下の通りです。
- 認知症は脳の病変によって生じる
- 認知症は記憶障害・判断力の低下を引き起こす
- 統合失調症は脳の機能低下による精神疾患の1つ
- 統合失調症の主な症状には幻覚などの陽性症状がある
- 認知症と統合失調症には、薬物療法と日常生活へのアプローチが行われている
これらの情報が少しでも皆様のお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。